パンのサブスク事業、経営の数字で分解すると?
こんにちは、八木です。
先日、テレビ東京の「ガイアの夜明け」で、パンフォー・ユー社というベンチャー企業が運営している「パンスク」という、パンのサブスク事業が紹介されていました。
「パンスク」は、全国各地のパン屋の商品を首都圏の消費者に定期配送するビジネスで、パンフォー・ユー社が開発した冷凍パンを美味しく保存できる特殊な袋が活用されてます。
番組で解説された情報をもとに、「経営の数字」という側面から「パンスク」事業を分解していきます。
(参考)テレビ東京「ガイアの夜明け」webサイト
https://www.tv-tokyo.co.jp/gaia/backnumber4/preview_20210430.html
注:ビジネスを「経営の数字」の側面から眺める題材として「パンスク」事業を利用しました。様々な仮定に基づくシミュレーションで実際の数字とは異なる点をご理解いただいたうえでご覧ください。
1.前提情報
今回、原則として「番組で解説された情報」と「解説や映像からの推測」の2点を前提情報として、シミュレーションを行いました。
なお、価格情報のみ、パンスクのwebサイトを参照しました。
①番組で解説された情報
□ パンスク事業の概要
- 提携するパン屋は全国各地30店舗
- 1回当たり3,990円(税・送料込)
- 1回当たりのパンの個数は6~10個 →平均8個と仮定します
- 利用者は6,000人(首都圏)
□ パンフォー・ユー社の概要
- 2017年設立のベンチャー
- 従業員数30名
- オフィスはコワーキングスペース
②番組で取り上げたパン屋の解説や映像から推測
- パン屋の月収入は10~20万円程度 →売上か粗利か不明確でしたが、粗利と解釈します
- 配送用段ボールと冷凍用袋の購入が必要
- 段ボールに箱詰め後に冷凍するスペースが必要 →もともと使っていた冷凍庫を利用している様子で、追加コストゼロと仮定します
- パン屋は地元で普段使いされているお店で、店頭に並ぶ各種パンの価格帯は150~200円程度 →200円のパンを使うと仮定します
番組以外で確認した情報
- 1回当たり2,900円、送料780円、税込3,990円
(情報元)パンスクwebサイト
2.消費者の視点から
1回当たりの消費者の支払額は「3,990円」
1回当たりのパン個数を平均8個と仮定すると、
- 3,990円÷8個≒1個当たり500円
ですね。
1個500円のパンを高いと思うか、安いと思うかは人それぞれですが、普段は食べられない全国各地のおいしいパンが、毎回違う内容で味わえる、という特別な体験に価値があるのかもしれませんね。
さらに、3,990円から送料や消費税を除いた「2,900円」が運営会社のパンフォー・ユーの「売上」となります。
ここで気になるのが、この2,900円をパンフォー・ユーとパン屋がどう分けているのか?
ここでは、パン屋の視点から、考えてみます。
3.パン屋の視点から
パン屋の売上は、
- 1個当たり200円
- 1回当たりのパン個数を平均8個
とすると「200円×8個=1,600円」です。
仮に原価率30%とした場合の粗利は、
- 売上 1,600円
- 原価 1,600円×30%=480円
- 粗利 1,600円-480円=1,120円
では1店舗で何個売れるのか?
会員数6,000名が月平均1回の利用とすると、
- 月6,000回÷提携パン屋30店=1店当たり月200回
- 1回当たり売上1,600円×月回数200回=月売上32万円
- 1回当たり粗利1,120円×月回数200回≒月粗利22万円
と計算できます。
提携パン屋にとって、パンスクでの販売は、
- 既存設備で対応可能(追加投資不要)
- 追加コストは資材代のみ
- 受注生産なので廃棄リスクゼロ
なので、店頭価格よりも販売価格を低く設定していると推測します。
番組内で登場したあるパン屋の月粗利は「10~20万円程度」とあったので、仮に平均月15万円として販売価格を逆算してみます。
まず、月15万の粗利を稼ぐために必要な1回当たりの粗利益は、
- 月粗利15万円÷月回数200回=1回当たり粗利益750円
となります。粗利から売上を逆算すると、
- 粗利 750円
- 原価 480円(1,600円×30%)
- 売上 750円+480円=1,230円 →店頭価格1,600円の約7割引
となり、店頭価格1,600円の約7割引で販売しても、十分に月15万円の粗利を確保できる計算になります。
以上の試算からパン屋の月損益をまとめると、
- 売上 1,230円×200回=24.6万円
- 原価 480円×200回=9.6万円
- 粗利 24.6万円-9.6万円=15万円
と推測されます。
実際には、店頭販売用途は異なる商品の工夫など苦労もあるかもしれませんが、パン屋にとっては貴重な安定収益源として大きなメリットがあると感じました。
ちなみに、1日当たりの回数は、
- 月回数200回÷月稼働日数25日(仮定)≒1日当たり8回(パン64個)
です。
番組に登場した「家族経営のパン屋」を想定すると、
- 店頭販売分以外に毎日64個のパンを作る作業負担
- 箱詰めした8個の箱の冷凍保管スペースの確保
の2点が課題となり、パン屋が新たに提携を検討したり、既存提携店が取り扱いを増やしたりする場合、特に後者の「冷凍保管スペースの確保」がボトルネックになりそうだと感じました。
4.運営会社の視点から
1回当たり損益は、
- 売上 2,900円
- 仕入 1,230円(パン屋への支払=パン屋の売上)
- 粗利 2,900円-1,230円=1,670円
となり、粗利率は約60%になります。
月当たり損益は、それぞれ6,000回を掛けて
- 売上 2,900円×6,000回=1,740万円
- 粗利 1,670円×6,000回≒1,000万円
と計算されます。
さらに、月当たり固定費をざっくりと推測します。
- 人件費 従業員1人当たり平均月額給与25万円×30名=750万円
- 付随する諸経費も同額の750万円(社保・通勤・家賃・PC他備品類・通信・旅費・採用費他)
以上より、月当たり固定経費1,500万円と試算します。
仮に同社がパンスク事業のみを行っている場合の月損益は、以下のようになります。
- 売上 1,740万円
- 粗利益 1,000万円(≒限界利益、約60%)
- 固定費 1,500万円
- 営業利益 △500万円(赤字)
では、営業利益が黒字になるために必要な売上は?
- 固定費1,500万円÷限界利益(粗利益)率60%=2,500万円
同じく、黒字化に必要な会員数は?
- 2,500万円÷1回当たり2,900円≒8,620回
- 現状6,000人とすると、あと2,620人増やす必要あり
(1人あたり1回とした場合)
会員数増加に応じて必要な提携パン屋の数は?
- 8,620回÷1店舗当たり200回≒43店
- 現状30店舗とすると、あと13店舗増やす必要あり
ちなみに、この試算では以下を考慮していません。
- パンスク事業以外からの粗利
- パンスク事業でのパン売上以外の粗利(資材販売など)
- 広告宣伝費などマーケティング費用やシステム投資など
①②は情報がないのでわかりませんが、③はwebマーケティングの観点から顧客1名当たりの獲得コストを推測できるかもしれません。
パンスク事業に限って考えると、
- まずは、利用者と提携パン屋をバランスよく増やしていく
- 次に、利用者の継続率を高めるために、パンの質を高めていく(選択肢を増やす、各顧客の嗜好に応じたパンを選ぶ、各パン屋の品質を上げるなど)
というステップで成長していくのでは、と感じました。
(参考)「経営の数字」の流れ
まとめ
いかがだったでしょうか?
数字を使うと、漠然としたビジネスの輪郭がよりクリアになります。
今回は様々な仮定を置いているので実際とは異なりますが、経営の数字を使ってシミュレーションすることで事業の構造が可視化され、
- 現場の課題を把握できる
- 業績の見通しを持てる
- 何をすべきかがクリアになる
- 方針を共有して、組織が動きやすくなる
などの効果を得られます
もちろん、今回のような新しい事業を始める場合だけでなく、既存事業を維持・拡大していく場合でも同様です。
改めて自社のビジネスを見つめ直すきっかけになるのではないでしょうか。
「自社も経営の数字をもっと活用したい!」という方は、【無料個別相談会】をご案内しています。ぜひお気軽にご相談くださいませ。
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最後までお読みいただき、どうもありがとうございます。
あなたのビジネスを発展・成長させるヒントになれば幸いです。
株式会社C&Aパートナーズ
代表 八木雄毅