弊社創業以来のクライアントである東阪電子機器株式会社の次期経営者、永野さんからお話を伺いました。
- お話を伺った方:東阪電子機器株式会社 常務取締役 永野さん
- 聞き手:株式会社C&Aパートナーズ代表 八木
今回は、次期経営者として日々奮闘する永野さんご自身の事業承継に向けた現在進行形のストーリー、そして弊社代表の八木との関わりの2部構成となっています。
事業承継に向けた準備を模索する経営者や次期経営者の方、弊社を含め第三者のサポートに興味のある方のご参考になれば幸いです。
<構成>
東阪電子機器株式会社について
第1部:永野さんの事業承継ストーリー
第2部:八木との関わりについて
東阪電子機器株式会社について
1984年創業。モーションコントロールをコア技術とするモノづくり企業。東京・大阪・香港・中国(東莞)に拠点を持ち、顧客ニーズに応じた1品1様の開発件数では業界で圧倒的な実績があります。現在、第二創業期として新規事業や組織体制の変革などに取り組んでいます。
ウェブサイト:https://www.tohan-denshi.co.jp/
第1部:永野さんの事業承継ストーリー
八木
まず最初に、永野さんの現在の仕事内容を教えてください。
永野
4年前の2017年に当社に入社しました。管理本部の責任者から始まり、海外子会社や営業、モノづくりへと、少しずつ関わる領域を広げてきました。
現在は常務取締役として、社長直下で経営全般を統括するポジションを担い、開発や製造、資材などのモノづくり関連の機能を持つ大阪テクニカルセンターのトップも兼務しています。日々の細かな実務から会社の将来を見据えた新しい取り組みまで、メンバーを巻き込みながら活動しています。
「経験欲」から生まれたチャレンジ精神
八木
1984年創業ということは、永野さんは小さい頃から父親が経営者の家庭で育ってきたのですね。
永野
私が4歳の頃、父親がサラリーマンから独立して事業を始めました。父親から「いろんなことを経験すると未来が開けるぞ」というメッセージを刷り込まれたせいか(笑)、とにかく新しいことをやりたい「経験欲」が強い子どもでした。父親は、進路や部活など様々な場面で「自分で決める」ことも繰り返し言われ、自分で決めるためにはいろんな経験をしないと判断できないぞ、という教育を受けてきました。
母親も、決められたことはきっちりやり切ることに非常に厳しく、小さい頃は門限を1分過ぎただけで2時間立たされたこともありました(笑)
振り返ってみると、この頃の経験が、「当たり前のことを当たり前にやり切る」「社員にはなるべく自分で決めてもらう」という今の経営方針につながっていると思います。
八木
小さい頃から将来は会社を継ぐという意識はあったのですか?
永野
小学生の頃は「社長ってすごい」「社長になりたい」と漠然とした気持ちはありました。だからと言って何か特別なことをした訳ではありませんが、さきほどの「経験し続ける」という行動につながっていったと思います。
製造業だったので技術がわかる経営者も魅力的でしたが、「理系は無理だな」ということで経営を学ぶ方向に舵を切りました。大学では国際経済を専攻し、就職先は、製造業で若いうちからチャレンジさせてくれるオムロンを選びました。
八木
オムロンではどんな経験をされたのですか?
永野
オムロンでは、営業からスタートして、台湾で海外の経営企画を経験。帰国後は本社の事業企画でキャリアを積みました。
最初の営業では、担当地区最大の顧客を担当して開発や製造と新たな製品を創り出す仕事をしたり、毎月のように海外出張に行くようなグローバルプロジェクトを担当したりと、若いうちから面白い仕事を数多く経験させてもらいました。台湾でも現地の企画トップとして、何百人をマネジメントする仕事も経験しました。オムロンでは人にも仕事にも恵まれ、とても楽しかったです。
「目の前の身近な人を幸せにする」という決断
八木
オムロンでの仕事は充実していたようですが、いずれ会社を継ぐ気持ちに変化はありませんでしたか?
永野
父親から戻って来いと言われるかと思っていたのですが一向に言われず(笑)、一方でオムロンでの仕事が面白かっただけに、いつの間にか月日だけが過ぎてしまいました。
八木
なるほど。何がきっかけで会社を継ぐ決断ができたのですか?
永野
会社を継ぐかどうかの選択肢と本気で向き合い、結論を出したのは当時通っていたグロービス経営大学院のクラスでした。
当時、オムロンで社長になる、自分で起業する、父親の会社を継ぎ、自分のやりたいこともやる、という3つの選択肢がありました。まず、オムロンで社長になるという選択肢は、社長になれたとしても10~20年先で、大企業では自由にできる範囲は限られる、と考えて選択肢から外れました。
さらに、その後のクラスで松下幸之助やマンデラなど社会に大きな影響を与えた人物の人生に触れる機会がありました。そこで私は、世の中を幸せにしても、目の前の身近な人を幸せにできていない人生に違和感を覚えたのです。その違和感から、私が大事にしたい価値観は、自分の一番そばにいる人を幸せにすることだ、と気付きました。
父親は、本音では私に会社を継いでほしいと思っているのに、私がオムロンで楽しそうに仕事をしていて言い出しづらいのではないか、私は、自分を一番大事にしてきてくれた人をサポートできていない、と思うようになりました。それで私は、自分から会社に入らせてもらいたい旨を父親に直接伝えました。
「社員一人一人は高い能力を持っている」
八木
永野さんから社長に伝えたんですね。永野さんが東阪電子機器へ入社したのは4年前の2017年ですが、実際に入社してみて感じたことを教えてください。
永野
大企業から中小企業に入ったので、いろんなものは割り引いてみていましたが、やはり大手では当たり前だった会社の仕組みやシステムはありませんでした。一方で、実際に現場で社員と関わってみて、社員一人ひとりの能力は非常に高いことにも気付きました。
大手では社員は仕事の一部しか担当しないので、その部分に関する能力は高いのですが多岐に渡る仕事はできません。しかし、中小企業では社員一人ひとりが幅広い役割をしないと仕事が回らないため、自然と能力が身に付いているのだと思います。
外から入ってきた私から見ると能力があると感じたのですが、社員はそれに気付いておらず、自信もない様子でした。おそらく他社と比べる機会もないため、たとえば自信を持って自社の強みも答えることができず、もったいないと感じました。
「成功体験」を作り出す
八木
「足りない部分」ではなく「可能性」に着目したのですね。
永野
社員一人ひとりが自信を持つことによって、「100」を「110」にして、掛け算していきたいと考えました。自分たちがやったことをちゃんと評価できるようにしたいと考え、成功体験が得られるプロジェクトを作りました。
具体的には、自社で力を入れている環境関係や健康経営などの分野で外部機関からの受賞を目指すプロジェクトを、社員と一緒に始めました。最初は「うちでは無理だよ」の声ばかりでしたが、1年間ほど続けて、健康経営優良法人や環境人づくり企業大賞、はばたく中小企業300社など様々な受賞を獲得することができ、「ちょっと頑張ればできるんだ」という声に変わっていきました。
八木
目に見える成果ですね。どんな苦労がありましたか?
永野
実際に受賞するまでは、当然、社員も疑心暗鬼で「言われたからやっている」状態でした。私自身も「結果が出なかったらどうしよう」という不安はありましたが、行動するしかないと腹をくくって前に進み続けました。ここで最後までやり切ったことが、「あきらめずにチャレンジし続ける姿勢」を社内に浸透させていく最初のきっかけにもなりました。
「温故創新」の理念とビジョンづくり
八木
次期経営者として社内で信頼を獲得するのは簡単ではないと思います。経営者として大事にしていることは何でしょうか?
永野
私の入社後、創業35周年の節目には、今後の自社の方向性について役員でトコトン話し合いました。
社長と私がそれぞれ大事にしている想いを、「温故創新」という経営理念や、「世の中の潜在ニーズを探し形にし続ける」「新しい事にチャレンジし続ける」「多様性を尊重し、前例に縛られず前に進み続ける」という経営方針に落とし込むことができました。
自分の想いが反映された理念と方針をベースに経営と向き合えることは、一貫性のある判断や指示、行動が取りやすくなるので、そのような場を作ってくれた社長にはとても感謝しています。
(経営理念と経営方針:https://www.tohan-denshi.co.jp/company/)
八木
先代が作った理念と、ご自身の価値観や方針が合わずに苦労される後継者も多いですが、永野さんの場合は、父親である社長との関係はいかがでしたか?
永野
ありがたいことに新しい取り組み全般を任せていただいているため、実務上のことで社長と意見が対立する場面は数多くあります。しかし、目指すゴールは一緒で、ゴールに至るまでの道筋が異なる場合が多く、目的に立ち戻れば共感できるんです。先ほどお話した、経営理念の作り直しを社長と一緒にできたことはとても意味があったと思います。
「新たな事業への投資」
八木
次々と新たな取り組みを始めていますが、今後、どのような展開を考えていますか?
永野
モーションコントロールをコア技術としてODM開発受託で製品を提供する従来のモデルから、モーションコントロール技術をさらに磨き上げてニッチ業界のトップを目指したいと考えています。さらに、新たな事業の柱として「遠隔省人化」に特化したIoTサービスの展開も進めます。具体的には、様々なセンサ情報の「視える化」にフォーカスしたモノづくり、モノと情報をセットに提供するサービス、これまで関わりの少なかった建設や公共事業などSDGs関連分野への展開などに取り組んでいます。
既存事業を盤石にすることで、新たな事業に思い切った投資ができます。現在、八木さんを含め外部の方にも加わってもらい新しい枠組みを作っているので、今後は新しい社員も加えながら、新旧社員を融合させて新しい展開を加速させていきます。
第2部:八木との関わりについて
「社長と同じ経営スタイルはできない」
八木
続いて、私との関わりについて伺っていきます。振り返ってみて、相談相手として考えたきっかけを教えてください。
永野
私は、自分がいざ会社を経営しようとしたとき、(創業者である)社長のような力はないので、社長と同じ経営スタイルはできないと考えていました。自分一人でやるのではなく、いろんな方々にサポートしてもらいながら会社をまとめていくスタイルが必要だと感じていました。一言でいえば「トップダウン」から「ボトムアップ」へのチャレンジです。
そんな中で八木さんは、中小企業の再生支援を経験していて、大手ではなく中小企業の実態を理解しており、自分が決めたやり方を押し付けるのではなく、一緒に作っていきましょう、というスタイルだったので、一緒に会社をバージョンアップしていけると感じました。
八木
その当時、悩んでいたことは何ですか?
永野
まず「事業承継ってどうやるの?」ということ自体がわからなかった(笑)。独りよがりにならないよう「自分では課題はここだと思っているけど、本当にそれが真の課題なのか?」を客観的に見てもらえる人は必要です。(一般論ではなく)会社の中に入って実情も見てもらった上で、自分がやろうとしていることが本当に正しいのか、外部の目からチェックしてもらいたいと思っていました。
「当たり前のことを当たり前に運用できる仕組み」を作る
八木
正式に依頼する際に迷ったことはありますか?
永野
迷いはありませんでした。確かに、コンサルティングをお願いする判断はとても難しいです。ただ話を聞くだけでもお金がかかる場合もありますし。「何回か来てくれているけど、それで?」という風にはしたくなかったんです。
八木さんの場合、最初に事業計画や海外子会社含めた連結での業績や財務内容の見える化といった、目に見える形でお願いできる分野から入ってもらえたので、社長を含めてスムーズに意思決定できたのではないでしょうか。
八木
実際にどんなサポートを受けていますか?
永野
ほぼすべての部署と関わってもらいながら、財務や組織などに関して「当たり前のことを当たり前に運用できる仕組みづくり」をサポートしてもらっています。
具体的には、海外子会社含めた連結での業績や財務状況の見える化と分析、次のアクションへの提案、事業計画の検討、部門長ミーティングへの参加と改善アドバイス、社員の目標管理や評価の仕組み作り、補助金や助成金の申請、製造部門の業務改善など。1年前と比べると色々なものが見えるようになり、社内の動きも着実に変わってきました。
「(社員が)自分で考えて行動する」
八木
特に印象的な取り組みはありますか?
永野
最近一緒に取り組んでいる製造部門の仕事の見える化では、以前から自分たちで少しずつ日報や予定表などのパーツは揃えていましたが、それらを統合してパッとわかる形になっていませんでした。八木さんに入ってもらうことで、経営陣と現場メンバーの目線をすり合わせながら、パーツの組み換えや追加をしながら意味のある形に作り上げることができつつあります。なにより、現場のメンバーと直接関わってもらうことで、メンバーが自分で考えるようになり、「こうしたら更にいいのでは?」といった自発的な提案が出てくるようになったのが何よりの嬉しいですね。
昨年から段階的に導入した目標管理や人事評価制度も、最初は社内の理解を得るのに苦労しましたが、何回か目標設定と評価、面談のサイクルを回すことで、少しずつ自分たちの活動を伝える手段として前向きに捉えるメンバーも増えてきました。経営陣と社員とのコミュニケーションのためのツールとしても有効活用できています。「言われたことをやる」から「自分で考えて行動する」へ組織を変えていくために、引き続き運用と改善を重ねていきたいです。
八木
今後、期待することは何ですか?
永野
マーケティングから営業、技術、資材、製造、管理の流れがスムーズに回るように、会社全体のシステムを整えていきたいと考えています。現状の延長線上ではなく、全体を俯瞰して仕事がスムーズに流れるように見える化していきたいので、この部分も一緒に取り組んでもらえたらと思っています。
「会社をバージョンアップさせたい経営者や後継者」
八木
どんな方に八木をおススメしたいですか?
永野
会社をバージョンアップしようと思っているけど、どこから手を付ければいいか悩んでいる経営者や後継者におススメしたいです。
中小企業では、「表面的な姿」と「実態」が大きくかけ離れている場面も多く、まずはこの差を見えるようにすることが大事です。たとえば、営業が「このお客様で売上が上がってます」と言っても、中身をよく見るとそのお客様との取引が赤字の場合もあります。まずは事実をきちんと見えるようにして、見えるようになれば手を打つことができます。間違った姿をもとに判断すれば、誤った打ち手になってしまいますよね。
八木
中小企業では情報を整理する仕組みができいない場合も多いので、まずは事実を把握するは大切ですね。
永野
経営陣と現場の考えがズレていても、現場から経営陣に意見は上がってきません。経営者の話を翻訳してわかりやすく現場に伝える、現場の声をわかりやすく経営陣に伝えるためにも、「感覚」ではなく「事実」に基づくコミュニケーションが大事です。八木さんは中小企業を数多くサポートしてきているので、「事実」をどう伝えればいいかを理解していると思います。そう考えると、社長が孤軍奮闘して色々と手を打っているが、自分がイメージするようにうまくいっていないと感じる経営者や後継者にも価値がありそうです。
「費用対効果を数字で説明する」
八木
第三者からのサポートを検討されている方に何かアドバイスはありますか?
永野
八木さんは何か既存のフレームワークを持ち込んではめ込んでいくのではなく、会社の中に入って実情を見ながら一緒に作り、運用と改善まで取り組んでいく点が、一般的にイメージするようなコンサルティングとの違いかな、と思います。決断するためには、事前に「何をやるか」を具体的にすり合わせることと、費用対効果についても、しっかり数字で説明できるように考えることが大切だと思います。
八木
本日はどうもありがとうございました。